幼いころ、どんな髪型でしたか?
おかっぱ?おさげ?それとも、スポーツ刈りかしらん?
今回は髪型にまつわる映画、「バーバー吉野」を拝見しましたので、盛大にネタバレ交えて綴っていきたいと思います。
あらすじ
山に囲まれた、小さな田舎町。一見するとどこにでもありそうなその町には、ちょっと変わった伝統がありました。少年たちは一様に、「吉野刈り」と呼ばれる こけしのように短く切りそろえられたマッシュルームカットだったのです。
その町には「バーバー吉野」という代々続く散髪屋がありました。町の中で髪を切ることができるのは、この一軒だけ。ですから子どもたちはみんな、ここで髪を切るしかなかったのです。
主人公の吉野慶太は小学生。「バーバー吉野」は慶太の母が営んでいる店でした。慶太も町の子どもたちも、吉野刈りにするという風習にぼんやりとした疑問はありつつも、それに対して反抗することもなく、平穏に暮らしていました。
「子どもの頃はみんな吉野刈りだったよ」
「なんで?」
「ま…まさか、お前たち知らないのかい?こりゃあ驚いたぁ…この町には古い言い伝えがあってな。あの裏山にはな、昔から山の神様に仕える天狗様が住んでいるんだよ」
「天狗ってあの赤くて、鼻が赤いやつ?」
「そうそうそう、その天狗様がたまに悪さをしおってな。この町の少年を攫いにくるんだよ。大事な子どもたちを攫われたら困るってんで、この町の人たちは、天狗様の目をごまかすために、子どもの髪型をみんな同じにしたんだ」
『それって本当の話なの?お母さん』
「さぁ、どうかしらね。でも神社の祠には未だに吉野刈りの人形が祀られているし、案外本当かもしれないよ。それに代々この店が吉野刈りの伝統を守ってきたのは間違いない事実よ」
(劇中より引用)
そんなある日、東京から一人の転校生がやってきました。坂上君という少年は茶髪で、控えめに立てた前髪を左右にわけた髪型でかっこよく、クラスの女子たちの人気者になりました。
慶太は坂上君の家の近くということで、先生に町を案内してあげるように言われます。慶太が自分の家の前までやってくると、店から母が出てきました。そして坂上君に、吉野刈りにするように言いつけます。しかし、坂上君は強く反発するのでした。
それからも坂上君は、教師たちからも吉野刈りにするよう強く迫られます。この町では、吉野刈りではない子は目立ちますし、不良だと思われます。それに、クラスの男の子たちも、坂上君を仲間にいれようとはしません。吉野刈りにしないと仲間にいれないと言うのです。
ついに坂上君は、職員室に呼ばれるまでに至ります。そこで「吉野刈りにするくらいなら学校には来ない」と宣言し、本当に病気を理由に学校に来なくなるのでした。家の近い慶太は、またも先生に言いつけられ、毎日授業で配られたプリントは、坂上君へと届けるようになりました。
慶太には仲の良い3人の友人がいました。ヤジ、カワチン、グッチです。山の中には4人の秘密基地があり、そこにはお菓子や少年誌などが秘蔵されていました。
「そういえば坂上、今日も学校休んだな」
『うーん…』
「慶太、毎日プリント届けにいってやってるんだろ?あいつ、そんなに重病なのか?」
『いや、そんなふうには見えないけど』
「ずる休みだな」
「あいつも早く吉野刈りにすりゃあいいんだよ。そしたら仲間にいれてやんのに」
『吉野刈りにするのが、そんなに嫌なのかな…』
「そういえばさぁ、この前 オレ、イトコの兄ちゃんに髪型 変だって言われたんだ」
『え…』
(劇中より引用)
それから数日、いまだに坂上君は学校に登校してきません。慶太の友人たちは、慶太がプリントを届ける後をつけ、坂上君がずる休みかどうかを確かめに行きました。そしてそのまま、家に上がり込みます。
『あのさ、坂上君。なんで学校来ないの?』
「そうだよ、なんで学校来ないんだよ」
「だって、僕、髪切りたくない」
「やっぱりな」
「絶対ずる休みだと思ったよ」
「なんで皆、同じ髪型にしなくちゃいけないのかな?」
「だって、そう決まってるんだもん」
「先生もそう言った。でも僕はおかしいと思う」
「なんで?なにがどうおかしいの?」
「髪型を統一するなんて人権の侵害だよ。しきたりだかなんだか知らないけどさ。そんなもの押し付けられても困るんだよね。髪型の自由は、事故の人格的生存に不可欠なものとして憲法十三条によって保障されているんだ。君たちは、表現の自由を伝統やしきたりなんかによって奪われているんだよ。僕はそんな伝統が素晴らしい伝統だとは、どうしても思えない。髪型は個人の人格…「よし、もうわかった」」
(劇中より引用)
そんな話をしている横で、友人の一人 ヤジが坂上君の部屋にある成人向け雑誌を見つけ驚愕します。女性の裸体で彩られたその雑誌は、お父さんのコレクションだったよう。引っ越しの時のどさくさにまぎれ、数冊拝借してきたのでした。
グッチは気になりつつも、不潔で 小学生が見てはいけない!と止めますが、他のみんなはもう本に興味津々。
「よし!お前も今日から俺達の仲間だ!だから これ全部、秘密基地に隠しておこうぜ。なっ、坂上」
「なっ、坂上。秘密基地に案内してやるからよ」
成人向け雑誌をきっかけに坂上君は彼らのグループの仲間の一人になり、学校にも再び通い始めるようになりました。グッチは相変わらず、成人向け雑誌のことを否定するため、ちょっとした溝ができてしまいました。
秘密基地を追い出されたグッチは、天狗の面をかぶって変装し、みんなを驚かせます。そして、あろうことか数冊の成人雑誌を盗みランドセルに隠して持ち出すのでした。
翌日、グッチはランドセルに成人向け雑誌を入れたまま登校して、先生に見つかってしまいました。おかげで、5人全員が大目玉を食らうことになりました。反省文を10枚書かされ、保護者にも連絡がいきました。
そのことを知った慶太の母は、慶太が帰ってくるなり頬を叩いてしかりつけます。そして、成人向け雑誌の出所が転校生の坂上君であることを知り、風紀が乱れているのは彼のせいだと思うようになります。それもこれも、彼の髪型のせいだ!として、坂上君の髪型を吉野刈りにするように執着するようになりました。
そんな中で、子ども達の中でも少しずつ変化が現れます。吉野刈りを嫌だと思うようになってきたのです。バーバー吉野の店主である、慶太の母が吉野刈りを強制している…という陰謀論も出てきます。
「俺さ、はっきり言って坂上が転校してきたとき、カッコつけやがってよ、嫌なやつだなって思ってたんだ」
『羨ましかったんだよ。かっこいい髪型が』
「俺もイトコのお兄ちゃんに吉野刈りのせいで笑われたし」
「俺も吉野刈りのせいで、好きな女子に告白できなかったし」
「えー!カワチン、誰にコクろうと思ってたの?」
「うるせぇよ」
「なんだよ…」
『吉野刈りやめたらカッコよくなれるのかな?』
「それは人によると思うけど。でも、みんなカッコよくなれると思うよ」
「俺も?」
「うん」
『俺もう吉野刈り嫌だ!やっぱり坂上君の言う通り、髪型は自由なのかもしれない』
「俺もかっこよくなりたい!」
「俺も女子にもてたい!」
「俺も!」
(劇中より引用)
そこで様々な作戦をたて、脱吉野刈りをしようとします。しかし、作戦もむなしく、とうとう慶太の母に捕まった坂上君まで吉野刈りにされてしまいます。大切な友人を傷つけたことに怒った慶太は、みんなで家ですることにするのでした。はてさて、子ども達はいったいどうなってしまうのか…。
感想
前情報を全く入れずに見たんです。以前「かもめ食堂」という映画を拝見して、同じ監督さんならきっと好きな世界観だ!と何ら迷うことなくね。ポスターを見ると、長閑な景色に まるで聖歌隊のような少年たちが。どんな映画なんだろう?と思ってみたら、いい意味で期待を裏切られました。
良い感じに面白かったです。お腹を抱えて笑うとか、涙なみだの大号泣とかではないんです。けれど、ところどころクスっと笑わされるし、なんだか見終わった後にほっこりするし。見てよかったなぁと思える作品でした。
『クソババァよく聞け!オレたちは吉野刈りなんて もうまっぴらなんだ!!・・・で、でも。お母さんが皆の敵になるのはもっと嫌だ!!!』
煩悩に忠実ながらも、でも小学生ですからできることに限りがありますよね。芽生え始めた性へ興味や、大人への反抗心とか。その辺りの塩梅も良いです。もうそれらを通り越してしまった者からすると微笑ましくすらありました。
慶太の母親役をされているのは、もたいまさこ さん。「かもめ食堂」にも出演されていました。かもめ食堂のマサコ役ではちょっと不思議で、掴み切れない、おっとりとしたおば様といった印象でした。ですが、今作では全然ちがっていて、ハキハキして、ちょっと暴走しがちなところもありつつも、でもやっぱり優しい「おかあちゃん!」みたいな感じ。
どちらの もたいさんも好きだなぁ❀
よもやま話
街中を歩いていると、可愛らしいお姫様みたいな髪型にアレンジしたお子さんをよく拝見します。花の形であったり、リボンの形であったり、どういった仕組みかはよくわからないものの、器用だなぁ、すごいなぁ、かわいいなぁなんて思って眺めております。
今もあると思いますが、私が幼いころは学校での髪型への指導が厳しい時代でした。髪を染めると不良だと言われ、肩に髪がかかったら切るか、おさげにくくれ!みたいな決まりがあったんです。ポニーテールとかももちろんダメです。切るか、おさげかです。今考えると、どっちでもええがな と思うんですけれど、当時はそのように指導されるとそれを受け入れるしかなかったんです。
「バーバー吉野」という作品の中でも、しきたりや伝統だからとなぜかはわからないけれど、していることってたくさんありますよね。それが良いことなら良いんですけれど、嫌だな…って思いながらも渋々やる…。それは正解なのか、間違いなのか。でも嫌だからっていうだけで、伝統を亡くしてしまって、それはそれで正解なのか、間違いなのか。
今回はわかりやすく「吉野刈り」という髪型で表現されましたけれど、きっと人の集まりごとに形の違った「吉野刈り」が存在していて、喜んでいる人もいれば、苦しんでいる人もいるんだろうなぁと考えさせられる映画でもありました。個人的にはとても推せる映画でしたよ❀