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シンプリストになりたいのです

映画・「耳をすませば」の感想

2022年に「耳をすませば」という映画が公開されていたのですけれど、ご存じでしょうか?

ジブリのアニメーション映画ではありませんよ。実写映画です。今回はその作品の感想やあらすじなどをネタバレ交えて綴っていきたいと思います。今回は少々辛口目です。

映画・耳をすませば (実写作品)について

1989年夏。読書が大好きな中学生・月島雫は一冊の本を読み終えました。図書貸し出しカードに書かれた「天沢聖司」という名前が目に留まります。どこか見覚えのある名前だと思い、他の本も確認してみると、どれも自分より先に彼の名前があることに気が付いたのです。夢見がちな雫は一体どんな人なのかと思いをはせるのでした。

翌日、雫は友人の夕子と学校で会う約束をしていました。図書室で本を借りた後、夕子の相談を受けますが、それは恋の相談でした。その最中、なんと夕子が思いを寄せている同級生の杉村が会話に入ってきます。唐突のことに驚いた夕子は、つい逃げ出してしまうのでした。

雫は夕子を追いますが、途中で図書室で借りてきた本を忘れてきたことに気が付きます。慌てて取りに戻ると一人の少年が、雫が借りた「フェアリーテイル」という本を読んでいました。雫は勇気を振り絞り、彼に声を掛け本を返してもらいます。けれど、彼は物語のテーマとなっている妖精のことを小ばかにして去っていくのでした。

なんとも最悪な出会い方をした2人ですが、実は彼が雫が夢に描いていた「天沢聖司」だったのです。それから少しずつ交流をもつなかで、お互い惹かれあうようになりました。

聖司は祖父が営む「地球屋」という店の2階で、チェロの練習をしています。将来の夢はチェリストになること。

「本 読んでるとチェロの音がするんだよ」

「えっ?」

「楽しい音だったり、悲しい音、ドキドキする音」

「そうなんだ。私もね、いつも本 読んでてつまんなかったり、感動したり、いろいろ感じるんだけどそんなとき音がするの」

「どんな?」

「うーん…なんだかよくわからないんだけど、なんか、水が落ちるみたいな」

「へぇ、じゃあ音の種類は違うけど、俺ら似てるのかも」

一方、雫はまだ将来の夢を決めかねていました。

「夢…?あー…私はわからないな。ただ最近、本 読んでもあんまり音が聞こえなくて。なんか物足りないような感じがして」

「じゃあ自分で書いてみれば」

「えっ」

「書いてみればいいじゃん、物語」

そして雫は物語を書くことになりますが、当然、そう簡単にいくわけではありません。生みの苦しみを味わいながらもなんとか物語を書き続けます。そんな雫に聖司は物語が書けたら自分を一番の読者にしてほしいと約束するのでした。

それからしばらくして、聖司は自身の夢をかなえるためイタリアに渡ることを決めました。雫も荒削りながらも物語を書き終え、これからも書き続けると決めます。そして二人はお互いに自分が相手を思っていることを伝え、10年後にまた同じ場所で再会することを誓い合うのでした。

ここまでは、あくまで前情報。途中途中で回想シーンとして出てくる物語です。本作でメインとなるのは、この10年後の1999年の物語。

大学へ進学した雫はその後、作家になるのではなく出版社に就職しました。今も物語は書いていますが、コンクールに応募しても落選ばかりだったからです。パワハラ気味の上司と童話作家の間で板挟みになりながら仕事をするうちに、雫は心の中で音が聞こえなくなってしまっていました。

聖司はイタリアで修行を積み、今はカルテットを組んでCD収録をするなど忙しくしていました。ただすべてが順風満帆というわけではなく、楽譜の解釈や表現の仕方などで戸惑い、焦燥する日々だったのです。

お互い、電話は手紙での交流はありますが、会えないまま10年。それでもお互いの存在が頑張るための支えとなっていたのです。

しかし、どうしても仕事が行き詰まってどうしようもなくなった雫は、有給休暇を取得し、聖司に会いにイタリアへとやってきます。そこで雫は、聖司が女性(サラ)に抱きつかれているところを目撃してしまいました。いったんは見て見ぬふりをしてその場をやり過ごしますが、その日の夜、雫と聖司のもとにそのサラがやってき、自分は聖司のことを好いていると宣言します。居ても立っても居られなくなった雫はその場から逃げ出し、そのまま日本へと帰宅します。出迎えた友人の夕子には聖司とは別れてきたと告げるのでした…。

 さて2人はいったいどうなってしまうのか…?みたいな物語です。

ジブリの「耳をすませば

耳をすませば」と聞いたら、まずジブリ映画を思い浮かべるのではないでしょうか。ただジブリ版「耳をすませば」とは結構違う点が多いです。ざっくりと違いを紹介します。

 まず、雫が夕子の相談を受けるシーンから。ジブリ版では合唱部に所属している夕子は、「カントリーロード」の曲に和訳した歌詞をつけてほしいと雫に頼んでいました。雫は自分が書いた歌詞を披露し、その後恋の相談を受けます。そして、本を忘れてきたことに気が付いた雫は、本を取りに戻ります。本を返してもらいざま、彼は雫の書いた歌詞にダメ出しをしてきます。勝手に読まれた恥ずかしさやら、なんやらで雫は聖司に「やなやつ」という烙印を押すのでした。

作中、この「カントリーロード」はすごい重要なのではないかと思うんですけれど、これは実はジブリオリジナルです。原作漫画にも実写映画にも出てきません。たしか、鈴木敏夫氏の娘さんが作詞し、宮崎駿氏が修正した…とかそんなエピソードがあったように記憶しています。

雫は「カントリーロード」の訳詞などの経験から、自発的に物語を書こうと!決めますが、そもそもジブリ版以外では訳詞をしているという描写もありませんし、物語は人から進められて書き始めるといった感じです。この違いは結構重要なのでは?と個人的に思います。

 次に、聖司の夢はバイオリン職人になること。実写映画ではチェリストですし、実は漫画原作では画家志望なのでどの作品でも違うんですよね。

 あと最後に大きいところだと、ジブリ版ではラストの方まで聖司は雫が物語を書いているということを知りません。雫はたった一人で物語を生み出す苦しみと戦います。職人って孤独なんですよね。

そして最初の読者になるのは聖司ではなく、彼の祖父で地球屋の店長です。雫の書く物語には、聖司の祖父が宝物にしている猫の人形 バロンが出演しています。その出演を許可してもらう際に、許可する代わりに書き上げたら最初の読者にしてほしいと言われ、雫は躊躇いながらも承諾したのでした。そしてなんとか書き終えた物語を読み終えたのち、雫は聖司の祖父から夕食を振る舞われながら、彼の過去の話をきいたり、大切にしていた原石をもらうのでした。

原作漫画「耳をすませば

では原作はどういった設定なのでしょう?

まず、雫と聖司が出会うストーリーや友人である夕子、杉村などの設定は概ね実写映画と変わりません。

大きく違う点は、原作では聖司の夢はバイオリン職人でもチェリストでもありません。絵を描くことが好きですが、画家志望だと明言しているわけではないんですよね。なりたいけどまだ悩んでいるような印象をうけました。…ということで、10年後にまたここで会おうの件は一切ないんですねぇ。告白のシーンはありますけど、ちょっと違うんです。

私も原作の続編「幸せな時間」を読んでいないので、そちらの方で将来の夢については詳しく出ているのかもしれませんが、あくまで原作漫画「耳をすませば」にはそういった描写はありませんでした。

また聖司のすすめで物語を書き始めるところは同じですが、誰かに読んでもらうという描写もありません。代わりに、雫の姉と聖司の兄の恋模様が少し垣間見えたり、そこで紆余曲折があったり…。実写版・ジブリ版が雫の成長物語である一面が強いですが、原作漫画は恋愛コミックとしての一面が強いように感じました。

本当にすべての原点という感じです。

感想

ここから感想なのですが、これはあくまで個人的なものです。作品を酷評するわけではありませんが、あまりポジティブな感想というわけではありません。ネガティブな話を聞きたくない!という方はご注意ください。

 

まず実写映画をみて一番に思ったのは「結局のところ何がしたかったの?」ということでした。なんというか、おいしそうな部分だけかいつまんで混ぜてみたよ★感が否めない。

過去回想シーンは概ね、原作漫画をベースに作られています。回想シーンを原作漫画ベースで描かれると、こちらは「あぁ原作漫画の続編として楽しめばいいのかしらね」と察すると思うんですけど、そうじゃないのです。ここにちょいちょいジブリ版のシーンのが紛れ込んでくるんです。

例えば雫が聖司の演奏で歌を歌うという描写。ジブリ版では「カントリーロード」、実写版では「翼をください」と違いはありますが、見ている側からすればジブリ版を連想するシーンです。そのほか、聖司が海外に修行にでて雫が帰りを待っているという設定などなど。

こんなふうに「ここは原作版!ここはジブリ版!そしてチェロに関する物語はオリジナルね!」とされると、正直「ん?」「んん???」の連続でした。

 あと全体的にセリフ回しやら脚本やらが古臭くて、トレンディドラマでも見せられているのかしら?という感じだったんです。よくよく考えれば、その感想は間違っていない…はず。だって物語の舞台が1999年だから。歴史映画みたいなノリでみれば、違和感はないかもしれません。これは現代ではなく、歴史もの…!平成初期がもう歴史ものなのかぁとちょっと悲しくなりましたけれど。

 まぁアニメーションだと許される演出を実写化した瞬間に白々しく見える…というのもありますかね?とも思ったり。

 ちなみにエンディングの映像はジブリ版のオマージュでしたけれど、杏さんが歌う「翼をください」が美しかったです❀ここはとてもおすすめですね❀

これから見る方へのおすすめ

文句言っておいて おすすめ?と思われるかもしれませんけれど、原作・ジブリ版・実写版とすべてみた私から、「ジブリ版をみました~」とか「原作版をみました~」という方にこれだけはおすすめしたい!

それは、それぞれを全く別のものとしてみるべし!ということ。

ジブリ版だって原作からみたら「設定が全然違う!」と思うのではないでしょうか。ジブリファンからしたら最初から原作に忠実な作品になると思っていないので、何とも思いませんが(慣れって怖い)。原作大好き!という方が初めてのジブリ作品でジブリ版「耳をすませば」をみるとびっくりすることでしょう。

それと同様に、全くの別物としてみてほしいのです。原作は原作、ジブリジブリ、実写は実写と考えてみれば楽しめると思います。

私は「続編楽しみだな❀」という頭で見てしまったから、合わなかったと思うんです。先入観ってよくないなぁとしみじみ…。だから楽しめなかったのは、私の問題なんですよ。そういう先入観なしで、ちゃんと時代背景とか意識するとそう悪い印象にならないと思うんです。

よもやま話

いつもは基本的にポジティブなことしか書いていないのですが、今回は少し正直な感想を綴ってみました。

普段、映画をみたらこちらで感想を書いていますが、すべての映画の感想を書いている…というわけではありません。素晴らしい映画でも、自分のなかでまだ未消化な映画は書けません。高畑勲監督の遺作である「かぐや姫」。個人的にはすごいよかったんですけれど、これは1回みただけでは書けないなと思いました。何度かみて、自分のなかで咀嚼できるまでは書かないと決めています。

それ以外にも、正直自分には合わない、つまらないと思った作品は書いていません。年に数作…あるんですよね。これは好みですから!仕方ありません。でもだからと酷評するのは違うな…と思うので普段は書いていないんです。

でもたまにはね、正直に感想を書きたいですし、先入観を持ってみて苦しむ方がいるかもしれないから微力ながら注意喚起というかお手伝いになればいいななんて少しばかり思ったり。

あくまで、個人の感想ですけれどね❀