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シンプリストになりたいのです

本・むかしむかしあるところに、

「日本昔話」と聞いて、まず何を思い浮かべるでしょう。

『桃太郎』、『浦島太郎』、『金太郎』、『かぐや姫』、『かちかち山』、『ぶんぶく茶釜』…言い出したらキリがありませんね。図書館司書になり、仕事の関係でいろいろと読み返す機会がありましたけれど、昔話の数は地方のお話もいれるとものすごい数です。『かもとりごんべえ』は幼いころは知らなくて、大人になってから知りました。

今でも日本昔話は、TVCMやマンガの中のパロディであったり、姿かたちを少しずつ変えながらも私たちの生活に根付いているように思います。今日はそんな本を紹介したいと思います。

『むか死』シリーズ

「むかぁしむかし、あるところに…」。昔話といえばこの文言から始まり、「おしまい」とか「とっぴんぱらり」で終わる印象があります。そんな昔ばなし、なのに新しい!という触れ込みの小説が、今から3年程前に発売されました。

それが青柳碧人さんが書かれた『むかしむかしあるところに、死体がありました。』。なんという衝撃的なタイトルでしょう。滅茶苦茶気になる!というのがファーストインプレッションでした。

誰もが知っている日本昔話をベースとして、密室殺人事件やアリバイ工作、クローズドサークルといったミステリならではの謎解きを盛り込んだ、懐かしいのに斬新な物語です。

実は『むか死』というシリーズになっていて2作目は『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』

3作目は『むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。』

こちらの3作目が最新作であり、最終巻だそうです。今回読んだのはこの最終巻。今までの作品を振り返りつつ、ネタバレを含みつつ感想を述べていきたいと思います。

むかしむかしあるところに、死体がありました。

こちらは2020年の本屋大賞にノミネートされていた作品です。シリーズ第一弾となる作品ですが、発売当初から、なにこのタイトル、滅茶苦茶気になる…!と目をつけていた作品です。そしてやっと手に取ったのが、2021年1月。なんと正月の三が日で読んでいたようです。

あくまでベースとしては昔話ですけれど、当然ストーリーは完全にオリジナルのもの。登場人物たちが昔話の登場人物であったり、その子孫であったり、その昔話になぞらえた事件が起こったり…と割となんでもありです。

なんでもありと言えばですけれど、ミステリって論理的に推理するものだと思うんです。当然、人間は壁を幽霊のようにすり抜けることなんてできませんし、空を飛ぶことも、ましてや魔術を使うこともできません。それが、この物語ではできちゃうんですよね。それが面白いです。ファンタジーなのに、論理的っていうアンビバレントというか、不思議な気持ちになります。

この『むかしむかしあるところに、死体がありました。』では『桃太郎』、『一寸法師』、『はなさかじいさん』、『浦島太郎』、『鶴の恩返し』をベースとした5つの物語でできています。それぞれが独立していますので、一つずつ読むのも楽しいです。

とはいえ、実はあまりミステリ・サスペンスを読まない私はあまり専門用語も解りませんで。知っているといえば、先ほど挙げたアリバイとかクローズドサークルとかその程度です。『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』やここ数年で読んだ数冊くらいの知識しかありませんから、尚更新鮮で楽しめたようにも思います。

1作目で特に印象に残ったのは『鶴の恩返し』でした。実際に読んでみて頂きたいのですけれど、こういった工夫をして書かれたものを読んだのは初めてでしたので「ほうほう」と楽しんで読むことができました。『浦島太郎』も印象的でしたね。って、結局全て初めてで印象深かったんですけれど。

合う合わないがはっきりしそうな物語ですので、まずこの1作目を見て面白ければ続きも読んでいただけるといいなぁと思います。

むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。

2作目では『かぐや姫』、『おむすびころりん』、『わらしべ長者』、『さるかに合戦』、『ぶんぶく茶釜』の5編です。どれも楽しむことができましたが、個人的には『さるかに合戦』と『ぶんぶく茶釜』がお気に入りです。まさかここであれが出てくるのか…!と。

余談ではあるのですけれど、漫画「鬼灯の冷徹」という作品が好きで、アニメも拝見していました。主人公は地獄の閻魔様の補佐官をされている鬼の鬼灯様。地獄の日常をコメディとして描いている作品で、これが勉強になるし、めちゃくちゃ面白いんです。

作者の江口夏美さんの知識量のすごさと、ひとコマひとコマの描き込み量がすごすぎて、1冊の情報量が半端ない。なのにコメディなので、サラッと読めるんです。作中には桃太郎一行や一寸法師、かちかち山のウサギである芥子ちゃん、ぶんぶく茶釜といった日本昔話の登場人物たちも登場します。さらに、昨今の昔話では教育上よろしくないとされてしまいカットされた描写についても深堀されていて、「そうなんだ」と思うことも多々。

その知識が、まさかここで役に立つだなんて!『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』を読んでいて、「あ、これ『鬼灯の冷徹』でも取り上げられていたなぁ」と無関係の作品が一本の糸でつながるような感覚がとても楽しかったです。

ちなみに、2作目はどの話も少しずつ繋がっています。きっと気が付いていない伏線もあるんだろうなぁ…また探したいなぁと思います。読んだのが2022年の9月中頃。ちょうど今くらいに読んでいたそうです。あの頃と言えば、引っ越し準備でバタついていたころ。もう1年もたつのかぁ…としんみりしてしまいます。

むかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。

最新刊であり最終巻である第三段。こちらは『こぶとり爺さん』、『耳なし芳一』、『舌切り雀』、『三年寝太郎』、『金太郎』がベースとなった5編です。

読んでみてやっぱり『むか死』シリーズは面白いなぁと思いました。どこがフラグになるのか、それがいつ回収されるのか解らないドキドキ。ファンタジー要素がいかに論理的推理に活かされるのか。それらが読めなくてワクワクします。

さすがに3作目となると尻すぼみ感はあるのかしら?という先入観ありで読みましたが、個人的には最後までちゃんと面白かったです。

『金太郎』はクローズドサークルのミステリなのですけれど、たぶん私、クローズドサークルが好きらしいです。『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』でもお決まりのクローズドサークルはやはりテンションが上がります。さらに童謡などの歌が事件に関係していて…というのは面白いですよね。曲になぞらえた問題を解決していくのって、なんであんなにワクワクするんでしょうかねぇ。

ちなみにですけれど、『三年寝太郎』って読んだことがない作品なんですよね。もちろんタイトルは知っていますけれど。機会があれば見てみたいと思います。

おまけ

この『むか死』シリーズ。タイトルとしては使用されていませんが、作中で取り上げられている昔話もあります。そういった、「お、ここでこれが出てくるんだ」というのもまた違った面白さがありました。

最終巻ではありますが、他にもまだ取り上げられていない日本昔話もありますから、また機会があれば読めたら嬉しいなぁと。

ふと思い出したのですけれど、小さい頃、夕方だったかに「まんが日本昔ばなし」というテレビアニメが放映されていました。市原悦子さんと常田富士男さんがナレーションをしていて、一人で何役もこなされていたように記憶しています。特に印象に残っているのはエンディング曲の「にんげんっていいな」。「くまの子みていたかくれんぼ…」という歌詞やメロディが今でも耳に残っています。不思議な歌詞だったなぁと。

全てというわけではありませんが、記憶に残っているお話は、どれもラストがもの悲しい雰囲気のものが多かったように感じます。『キジも鳴かずは撃たれまい』は本当に救いようがないというか…悲しいお話だったなぁ。「まんが日本昔ばなし」は教訓のようなものを教えてくれるアニメだったのかもしれません。

いにしえの話の主人公は、富や地位や力を得て「めでたしめでたし」となる。だが、めでたしめでたしで終わる話など、この世にあるのだろうか。富、地位、力…そういうものを得たところから、本当の話が始まるのではないか。

(『むかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし』P292より引用)

死体があっても、事件は解決なりなんなりして、生活は続いていく。その先に、めでたしめでたしがあるといいなぁなんて思ったりした。