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シンプリストになりたいのです

映画・植物図鑑

読書というのは、誰かと共有するものではなく個人で楽しむものと思っていた私。オタク気質で、周囲の同級生たちが読んでいないような漫画のノベライズであったりを読んでいたので、何かを読んでも共有するということをしませんでしたし、どちらかというとコソコソと楽しむものでした。

そんな私が、誰かと読んだ本の感想を共有するという経験は、この一冊がはじまりでした。

植物図鑑

植物図鑑 著:有川浩 さん

思わず拾ってしまったイケメンは、家事万能のスーパー家政夫のうえ、重度の植物オタクだった。樹という名前しか知らされぬまま、週末ごとにご近所を「狩り」する、風変りな同棲生活が始まった。とびきり美味しい(ちょっぴりほろ苦)”道草”恋愛小説。

(Amazonより引用)

出会い

大学1年生の頃、表紙のかわいらしさに一目ぼれしてこの本を手に取りました。それをたまたま大学で読んでいて、周りに読んでいる知人が2人もいたんです。誰かと同じ本を読むという経験がほとんどなかったので、とても嬉しかったことを覚えています。その知人2人とは、その後 「阪急電車」の映画を観に行き、有川さんファンとして時間を過ごしました。そのうちの1人は森見登美彦さんの作品も読んでいたので、そういった話を共有するのも楽しかったです。

今、X(Twitter)で読書関連のアカウントを1つもっていて、飽き性な私が4年以上続いています。そのもっともっと根深いところはこういった記憶があるのかもしれません。

映画

小川糸さんの糸暦を読んでいて、ふとこの本を思い出しました。糸暦も歳時記のように、節季ごとにまつわるお話が綴られていましたが、そういえば植物図鑑も似たような感じだったなぁと。読んでから干支が一周回っていますので、詳しくは覚えていないのですが、そういえばそこでも土筆の佃煮や、フキノトウのことを思い出したような…と。

そこでもう一つ思い出したのが、数年前に植物図鑑が映画化していたような…という薄ぼんやりとした記憶。そういえば観ていなかったけれど、あれはどんな感じだったんだろう…と。思い立ったら行動が私の良いところですね。以下、ネタバレ交えて印象に残った台詞を抜粋していきたいと思います。

大まかなストーリーは小説に沿っているようです。ところどころ違うところはありますが、まぁあまり詳細を覚えていないので問題なく観ることができました。

お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか?噛みません。しつけのできた良い子です。

(作中より引用)

この名シーンは小説版もとても強く印象に残っていたため安心いたしました。とはいえ、現実問題、知りもしない男性を拾うってなかなか危険なんですけれど、フィクションなんでね。そこはまぁよしとしましょう。

「雑草という草はない、草には全て名前があります」って昭和天皇は仰ったそうです。

(作中より引用)

いわれてみて、そうだよなぁと思った台詞。名前もしらない道端にさいている草にも人間が決めた名称があって、野山に数えきれないくらい生い茂っている草花にも全て名前があるのです。なんだか気の遠くなるような話ですけれど「そうか山という山がないように、雑草という草もないのか」と一人納得してしまったのでした。

そうだ、戻っただけだ。一人の家で起きて、満員電車に揺られて、会社にいって、一人の家に帰る。ただそれだけの生活に戻っただけなのに。樹に出会って、樹と暮らして、あったかい日々を、幸せな日々を知ってしまったから苦しくて、苦しくて…

(作中より引用)

誰かと離れた時、出会う前に戻ったという表現をよく目にしますが、実際のところ戻るなんていうことはなくて。確実に自分の中で変化してしまっている状態、その経験を吸収してしまっている状態の自分から、何もなかった状態に戻ることなんていうのは到底無理な話です。だからこそ、辛い。いっそ記憶も全てなくしてしまえたら楽なんでしょうけれど、そうはいかないから苦しいのですよね。

「別れる男に花の名前を1つ教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます」川端康成はそう言ったそうだ。

(作中より引用)

作中で実は一番印象に残った台詞です。なんて美しい呪いでしょうか。別れて自分はいなくなるというのに、毎年その季節が来るたびに相手は自分のことをいやがおうでも思い出す。きっかけは花の姿かもしれないし、香りかもしれないし、味かもしれない。そんな呪いをかけるほど、誰かを愛せるということがうらやましくもあります。

まとめ

干支一周分ぶりに再会した有川浩さんの植物図鑑。イケメンを楽しむ、演者を楽しむという恋愛映画として問題なく面白かったように思います。当然ですが、小説の方が植物に対する深みはありましたし、登場人物たちの心の動きも解りやすかったです。改めて読んでみてもいいかもしれないなぁ。小説ではきちんとマイナスな描写もしてくれていましたが、映画ではその点綺麗な部分しか描かれていません。ポジティブに楽しむ作品なのでしょうね。

ちなみに大学生の頃に実写化を想像したことがあったのを思い出しました。その時、私は確か向井理さんで樹をイメージしていたなぁと。

それにしても山菜が食べてみたくて仕方ありませんね。