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シンプリストになりたいのです

読書・リボルバー

フィンセント・ファン・ゴッホ。世界的に有名な画家で、特にアルル時代~の大胆な筆・色使いが人気であり、印象派として後世に多大なる影響を与えた人物といえます。しかし37歳という若さで亡くなっており、またその短い生涯で売れた絵はたった1枚だけでした。彼が有名になったのは没後のことであり、それは時代が彼に追いついていなかったことの証明なのだと私は思っています。

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読みました。リボルバーについてネタバレしつつ感想を綴っていきたいと思います。

 

1章・あらすじ

主人公 高遠冴の自室には物心がついたころから一枚の絵が飾られていました。

その絵は、確かに花を描いた絵だった。それでいて、描かれているのは花ではなかった。ひまわりの絵である。

(P7から引用)

それこそが フィンセント・ファン・ゴッホが描いた ひまわりの絵だったのです。中学二年生のある日、自室に飾られていたひまわりの絵はゴーギャンの絵に代わっていることに気が付いた冴。美術を愛する母が、たまたま展覧会で見つけた複製画を冴の部屋に飾ってあげようと購入したものらしい。そして冴は、母からゴッホゴーギャンについて聞かされるのでした。二人がアルルの地で共同生活をしたことを、仲違いした結果 それ以降会うことがなかったことを、ゴッホが自殺したことを、ゴーギャンタヒチで孤独のまま生涯を終えたことを。そして冴はゴッホゴーギャンの関係性にいつしか魅了されるようになったのでした。

その後 冴は、パリ大学で美術史の修士号を与えられ、なんとかパリ八区にあるオークションハウス「CDC」に勤めていました。それは外国人が正規雇用されることが稀なフランスでは至難の業だったのです。37歳になった現在でもゴッホゴーギャンの交流について研究を続けていました。

そんなある日。CDCが定期的に開催するオークション会場に一人の見知らぬ女性が現れます。50代くらいの品のいい女性。オークションが終了した後だというのに、会場の出入り口に佇んでいる彼女に冴は笑顔で声をかけます。彼女は あるもの を見てほしいと作品の持ち込みにきたのでした。彼女から醸し出される雰囲気には特別な、とてつもない気配を直感的に感じ取った冴と社長のギローは彼女の申し出を受け入れます。そして、サラと名乗る彼女が紙袋からだしたそれは 赤く錆びついてしまった一丁のリボルバーだったのです。そしてサラは口を開いたのでした。

「あのリボルバーは、フィンセント・ファン・ゴッホを撃ち抜いたものです」

(P46から引用)

かつてゴッホが下宿していた食堂『ラヴー亭』には、錆びついた拳銃が飾ってあったということがゴッホフリークの間では知られたことでした。その錆びついた拳銃はいつしか姿を消していましたが、その現在の持ち主がサラであるというのです。

サラはフィンセント・ファン・ゴッホを撃ち抜いた拳銃である証拠として、一冊の展覧会のカタログをCDCの面々に手渡します。それはアムステルダムにあるファン・ゴッホ美術館での展覧会のカタログでした。世界的な権威ある美術館で「ゴッホの自殺に使われたリボルバー」というキャプションつきで展示されていたことが、何よりの証拠です。拳銃はいったんCDCが預かり、冴は事実なのかを調査することになるのでした。

ゴッホについて

先にも述べた世界的に有名な画家 フィンセント・ファン・ゴッホ。27歳で画家になることを決心した彼は、自らの命を絶つ37歳までに多くの作品を遺しています。弟 テオから援助を受けながら南フランスにあるアルルに単身赴き 新しい画法を開花させていきます。アルル滞在中、ゴーギャンも共に制作活動を始めるも、絵画に対する意見が合わなかったのか2か月でゴーギャンゴッホの元をさることに。その際ゴッホゴーギャンを引き留めるために自らの耳を切り落とすという自傷行為に…。その後二人は会うことはなかったといいます。ゴッホは、アルルの市立病院に入院したのち、サン=レミ・ド・プロヴァンスにある修道院附属の療養院に入院。しかし、心身をも病んだゴッホは次はオーヴェール=シュル=オワーズに移り住みます。そしてその地で、自らの左腹部を拳銃で撃ち、その2日後、最愛の弟 テオに見守られながら息を引き取ったのでした。

リボルバー

冴はアムステルダムのファン・ゴッホ美術館を訪ね、キュレーターのアデルホイダ・エイケンに拳銃のことを確認します。しかし、展覧会で展示されていた拳銃と、CDCが預かった拳銃は別物であることが判明します。

そして更なる調査のため、CDCの面々はオーヴェール=シュル=オワーズを訪ねます。ゴッホが絵を描いたであろう場所を巡ります。麦畑、そしてラヴー亭へ。ラヴー亭の1階部分はレストラン、そして2階・3階は修復保存され一般公開されています。3階にあるゴッホが下宿していた部屋はとても狭く、貧しく、侘しい部屋でした。

その後CDCの面々はリアム・ペータースという男性と出会います。彼はラヴー亭を修復保存している非営利団体を立ち上げたのでした。そこで以前飾られていた拳銃について調査するうちに、サラとリアムが知り合いであることがわかり、また あの銃が「フィンセント・ファン・ゴッホを撃ち抜いたもの」ではなく「ゴーギャンリボルバー」であることを知らされるのでした。

数か月前、サラは親しくしていた友人から、自分は病に倒れもう長くないことからと秘密を打ち明けられました。自分はゴーギャンの孫であることを、『史実をかえてしまうような、信じがたい真実』を聞かされたといいます。そしてゴーギャンリボルバーのありかも。リボルバーゴーギャンが妻に秘密ともに私、妻(友人の祖母)→子(友人の母)→孫(友人)と三大に渡って受け継がれたものであること。そしてそのリボルバーゴッホにまつわる貴重なものであること。

オーヴェール=シュル=オワーズからパリへ帰る道中。ギローはゴッホを死に追いやったのはゴーギャンなのではないか?と仮説をたてます。そんな夢物語を否定する冴でしたが、リアムから聞かされた内容が事実であるのか、さらに調査することになりました。

翌日、フランス国立図書館を訪れた冴はゴーギャンの来歴について調査を始めます。彼が歩んできた人生はどういったものだったのか、そして彼の子どもたちは…。しかし妻は、画家になったゴーギャンを恨んでおり、リボルバーを代々受け継ぐような人ではありません。また、最愛のたった一人の娘も若くして命を落としています。そんななか、ゴーギャンの愛人たちの子に女の子がいることに気が付いた冴は、ある仮説に辿り着いたのでした。

携帯にはサラから二人きりで会いたいというメッセージが。冴は翌日サラとふたりで会い、調査の結果を伝えることに。そして、サラからある秘密について語られるのでした。

感想

1章はざっくりですがこんな感じの物語。正直ここまでは少々長いな…と思うところもありました。しかし、ここからの展開がもう惹き込まれる、惹き込まれるでして。いやぁいっきに全部読んでしまいました。

この物語のテーマは「ゴッホは何故 命を落としたのか」。自殺なのか、他殺なのか。他殺だとすれば犯人は誰なのか…。そんなミステリー要素のあるおはなしになっています。読み終えて感じたのは、これは作者である原田マハ先生の願いなのだろうなぁということ。こうであってくれたら、こうであってほしい。そんな願いがひしひしと伝わってくる作品でした。

ゴッホの思い出

私が初めてフィンセント・ファン・ゴッホを知ったのは、中学生の頃の美術の授業でした。アルルでのゴーギャンとの制作活動。その最中、自身の耳を切り落とし、その後診療施設に入り、自ら命を絶ったこと。とても印象に残ったことを今でも覚えています。ゴッホは狂人であったかのように教えられたように記憶しています。当時はゴッホの絵画の迫力に圧倒され(それは今でもですが)、感動よりも恐怖を感じました。

それから時が流れて、再びゴッホに触れたのは大塚国際美術館をしったときでした。きっと生涯のなかで実際に観に行くことができない名画たちにそっくりな原寸大の陶板をみることができる。そしてゴッホのひまわりを一同に見ることができるとしりました。

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これは以前、大塚国際美術館にお邪魔したさいにとった写真。芦屋のひまわりも飾られていて感動しました…!

o-museum.or.jp

あとは名探偵コナンの映画などでしょうか。とにかく、ここ数年で自身がアンテナをはっているからかゴッホと関わりをもつことが増えたのです。

そして2022年2月、ついに本物のゴッホ作品を目にすることができました。名古屋で行われていた「ゴッホ展 響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」を観に行きました。

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こちらはミュージアムショップで購入したマスキングテープ。かわいい…!

f:id:yu1-simplist:20230516230505j:image一番メインとされていたのが、左ポストカードの「夜のプロヴァンスの田舎道」だったと思います。その他「種をまく人」ですとか「黄色い家」ですとか…。初期のゴッホ作品も数多く展示されていて、おおおおっと感動しっぱなしでした。個人的には右ポストカードの「レストランの内部」が好きです。いつものゴッホ(…といえる程詳しくはありませんが)と違う、こんな絵も描くんだ…と驚いたのを記憶しています。

yu1-simplist.hatenablog.com

先日、麦わら帽子のつくり方をUPしましたが、左側の紺色のリボンを付けた麦わら帽子はゴッホをイメージして作成したものです。まだ自分の中では根深いと言えるほどではないですけれど、どんどんとゴッホとの縁が深くなってきているように感じます。これからも深めていけるといいなと思います。

また、実は殆どゴーギャンについて知りませんで…今回、リボルバーを読んだことをきっかけにゴーギャンについても興味が湧きましたので、深めていけたらいいなぁと思っています。とりあえずモームの「月と六ペンス」を読もうと思いますよ。

久々にしっかり目に読書して疲労感がありますが、とても有意義な時間でした。「たゆたえども沈まず」も積読してしまっているので読もう…!